『地球学習支援論-学び合える社会関係のデザイン』

荻野亮吾・近藤牧子・丹間康仁編著
定価:2,300円+税
ISBN:978-4-86692-344-4
発行日:2025/03/21
発行者: 大学教育出版

 人口減少や社会構造の変化に応じて、学齢期に閉じない生涯学習の視野で学びをデザインすることが必要な時代となった。本書は、大学での教員養成課程と社会教育主事養成課程、教職大学院の演習、さらには現職教員や教育委員会での活用を想定した入門・基礎レベルのテキストである。

もくじ
第Ⅰ部 生涯にわたる学びをどう理解するか?
 第1講 すべての人の生涯にわたる教育とは?
 第2講 学びを生み出す仕組みとは?
 第3講 大人はどう発達するか?
 第4講 働く世代はどう学ぶか?
 第5講 市民としての成長には何が求められるか?
 第6講 大人の「学びなおし」をどう支えるか?
第Ⅱ部 学び合いをどうつくるか?
 第1講 対話に基づいた学びをどうつくりあげるか?
 第2講 学びに向けてどう学習者に問いかけるか?
 第3講 学び合うワークショップをどう組み立てるか?
 第4講 対話と学びの「環境づくり」をどう進めるか?
 第5講 オンラインでの学び合いの「環境づくり」をどう進めるか?
 第6講 ふりかえりはなぜ大切なのか?
 第7講 学習の評価をどう行うか?
第Ⅲ部 地域と学校で子ども・若者をどう育てるか?
 第1講 小・中学生の「ふるさと教育」をどう進めるか?
 第2講 高校生のプロジェクト型学習の支援をどう進めるか?
 第3講 大学と地域での学びをどう進めるか?
 第4講 子どもの放課後の学びをどう支えるか?
 第5講 多様なバックグラウンドをもつ子どもたちの学びと生活をどう支援するか?
 第6講 外国ルーツの子ども・若者たちの明るい将来ビジョンをどう育むか?
 第7講 地域と学校の「協働」をどう深めるか?
第Ⅳ部 地域に持続可能な実践をどうつくりだすか?
 第1講 学びを止めないためにどんな支援が大切か?
 第2講 当事者の経験をどう言語化するか?
 第3講 被災地における支援をどう継続するか?
 第4講 障害者の学習を地域でどう支え続けるか?
 第5講 高齢者を中心とした地域活動をどう継続するか?
 第6講 子育て支援を通じて地域のつながりをどう育むか?
 第7講 ユースワーカーの省察をどう支援するか?
 第8講 地域の変革に向けた学習の循環や継続をどう生み出すか?

『SDGs時代の地理教育:「地理総合」への開発教育からの提案』

 2023年度から高校の地歴科に必履修科目の「地理総合」が新設された。学習指導要領の「地理総合」で提示された3つの「内容」のなかで、「B.国際理解と国際協力」と「C.持続可能な地域づくりと私たち」は、開発教育の学習課題と合致している。そこで、NPO法人開発教育協会(DEAR)の会員である地理教員らが中心となって編集執筆した本書が、2024年3月に発行となった。詳細は、以下のチラシのほかに、こちらを参照されたい。

『新SDGs論-現状・歴史そして未来をとらえる』

田中治彦著『新SDGs論-現状・歴史そして未来をとらえる』人言洞、2024年1月刊、2090円

 2030年を目標年としたSDGsは2024年からは後半戦に入る。SDGsの周知度が9割に達した今、SDGsの啓発の時代は終わり、これからはSDGsを具体的に推進する時期に当たる。そのためには、17目標程度の表層的な理解ではなく、それぞれの課題の歴史的な意義と経緯に立ち返って、より深い理解に基づいて行動に移していくことが求められる。

 本書はその副題に「現状・歴史そして未来をとらえる」とあるように、第一部ではSDGsの前身となる地球サミット以来のSDの考え方やMDGs(ミレニアム開発目標)での目標と成果を踏まえて、2024年の「現状」を確認する。特に教育の観点からESD・地球市民教育とSDGsの関連について章を設けている。

 続く第二部では、SDGsの「歴史」について、戦後の4つのグローバル課題との連続性について解説する。具体的には、平和問題、開発問題、環境問題、人権問題である。SDGsの17目標はこれら4つのグローバル課題が重層的に折り重なって成立していることを明らかにする。SDGsは平和問題の観点が弱いので、核と平和について1章を割いている。

 第三部では、2030年以降のグローバル課題がどうなっていくのかについての「未来」を展望する。ここでは、人口、生物多様性、気候変動、貧困・格差問題などの行方を扱う。最終章で、SDGsを「自分事」として捉えるにはどうしたらよいのかを議論する。SDGsは今の地球社会の「変革」を求めていて、「節約・リサイクル」レベルの活動を超えるための方策を探る。

 筆者はこれまでに『SDGsと開発教育』『SDGsと環境教育』『SDGsとまちづくり』『SDGsカリキュラムの創造』(学文社)を刊行してきた。SDGs関連文献は1000冊以上に上るが、2016年刊行の著作は日本で最初のSDGs解説書であった。SDGsの後半戦に向けて、本書により関係者の皆さんが改めて活力と展望を得られることを期待している。

もくじ

第一部 SDGsのルーツを探る
 第1章 SDGsとは何か? 
 第2章 「持続可能な開発」とは何か?
 第3章 ミレニアム開発目標(MDGs)
 第4章 ESD・地球市民教育

第二部 グローバル課題の戦後史
 第5章 戦後4つのグローバル課題
 第6章 南北問題-開発と援助
 第7章 環境問題-公害と熱帯林
 第8章 人権問題-「誰一人取り残さない」
 第9章 東西問題-核と平和

第三部 SDGsの未来
 第10章 2030年以降のグローバル課題
 第11章 SDGsを「自分事」に

SDGs・グローバル課題関連年表

田中治彦(上智大学名誉教授)

『SDGsと社会教育・生涯学習』

日本社会教育学会編『SDGsと社会教育・生涯学習(日本の社会教育第67集)』(東洋館出版社、2023年10月、3190円)

 本書は、2019 年に日本社会教育学会で採択された プロジェクト研究「SDGsと社会教育・生涯学習」以降、3年間にわたる研究成果を踏まえて編集されたものである。日本社会教育学会では、2005-14年の「国連ESDの10年」を受けて、社会教育におけるESD(持続可能な開発のための教育)研究を進め、2015 年に学会年報『社会教育としてのESD-持続可能な地域をつくる』 を刊行した。その後、同年9月の国連総会において2030年をめざしてSDGs(持続可能な開発目標)が策定された。

 SDGsは「国連ESDの10年」の時期よりも一層、社会・経済・環境の持続可能性が重視されていて、ジェンダー平等、格差・貧困の解決、生産・消費、地球温暖化など解決すべき問題領域は幅広い。すでにESDの10年の頃より、開発教育・環境教育・社会教育分野との接続が意識されていたが、SDGsの概念が提起されることによって、まちづくり、福祉、産業などの研究分野においても社会教育・生涯学習の重要性が意識されるようになっている。こうした状況に鑑み、ESD研究を発展させ、社会教育・生涯学習の分野でのSDGs研究の重要性を認識してプロジェクト研究の採択に至った。以後、コロナ禍でSDGs実践や研究に困難を伴うなかでも3か年にわたる研究成果をもとに本年報の刊行に至ったものである。

 本年報は以下の5部構成で展開されている。第1部は「SDGsと社会教育・生涯学習をめぐる理論的課題」である。ここでは、本テーマの理論に関する課題を扱う。総論、アクティブ・シティズンシップ、SDGsと民主主義、脱成長論と環境教育、についての論文が収録されている。第2部は「SDGsをめぐる学習論・組織論」である。SDGs学習は、人間社会の持続可能性と地球環境の持続可能性を扱う広範な学習活動である。そのため、学習論は必然的に学習組織論を伴うことになる。SDGsの当事者性学習論、SDGsを推進する体制づくりとしてのプラットフォーム論、ホリスティック教育の観点からみたSDGs学習論、対話とエンパワーメントをキーワードとしたSDGs学習論、という内容が論じられる。

 第3部は「ESDの発展としてのSDGs学習実践」である。現在行われている優れたSDGs学習は「ESDの10年」のときの学習や実践活動に起源をもつものが多い。神戸・兵庫県、岡山市、奄美群島、豊中市における実践が紹介されている。各実践の中からそれぞれ、SDGs学習をとおした若者の変容、行政・市民をつなぐ社会教育施設の連携のあり方、地域の生態系と文化に根ざしたESD、SDGs推進にあたってのネットワークづくり、といった課題が扱われている。とりわけESDとSDGsとの接続に当たっての諸課題が提起されている。第4部は「SDGsから見る社会教育実践の可能性」である。地域づくり、福祉、環境などの学習を行ってきた既存の社会教育・生涯学習実践において、SDGsの登場によりそれらの学習が深化したり相互につながっていく事例が見られる。SDGsの担い手を養成する講座、SDG4に関するキャンペーン活動、市民による「地域版SDGs」作成の試み、が論じられる。第5部は「アジア諸国のSDGs学習と実践」である。ネパールにおけるラジオを通じた社会参加と地域づくり、韓国におけるオルタナティブスクール、タイにおけるノンフォーマル教育を通した持続可能な社会づくり、についての3論文が収録される。それぞれの実践においてはSDGsの用語は用いていないが、SDGs学習に相当する持続可能な社会づくりに向けた学習活動が展開されている。

 本書が刊行された2023年はSDGsの中間年に当たる。SDGsを提起した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」には50項で「我々は、貧困を終わらせることに成功する最初の世代になりうる。同時に、地球を救う機会を持つ最後の世代になるかもしれない」と記されている。コロナ禍と戦争により2030年までの貧困撲滅は極めて困難になった。また、地球温暖化は想定以上に急速に進んでいるように感じられる。52項では、SDGsの達成には国際機関、政府、自治体、市民社会、ビジネスセクターなどすべてのステークホルダーの参加が必要であり、人々がアジェンダを「自分事」として捉えることこそが成功の鍵であるとしている。そのためには人々の協働的な学習活動が求められていて、社会教育・生涯学習が果たすべき役割は大きい。本年報がSDGs後半の実践や研究に向けて貢献することを期待するものである。

田中治彦(上智大学名誉教授)